キシツツジ(Rhododendron ripense Makino)は,ツツジ亜 属モチツツジ亜節モチツツジ列に属し,モチツツジ(R. macrosepalum Maxim.)と近縁の本邦固有の常緑性ツツジで ある.その分布域は中国,四国および九州の一部(大分県) で,河川の上・中流域の河岸の岩上等に自生している (Yamazaki, 1996).花は淡紫紅色で観賞価値が高く,リュウ キュウツツジ(R. × mucronatum G. Don)やオオムラサキ (R. × pulchrum Sweet)の成立に関わったとされている(伊 延,1971).また,耐湿性と耐乾性をあわせ持ち,春季およ び秋季の二季咲き性のものもあることから(国重,1976), 新しい特性を備えたツツジ品種作出のための育種素材とし て積極的な活用が期待される. 山陰地域で,春に河岸に咲くキシツツジはカワツツジや イワツツジと呼ばれて親しまれ,古くより各地の寺社仏閣, 公園および人家の庭等への植栽に利用されてきた.山陰地 域におけるキシツツジ自生地状況や集団内にみられる形態 変異等については清水・遠山(1967, 1970a, b)および遠山 (1971)の,四国地域については山口ら(1996)の報告があ るが,花や葉に関する詳細な形態調査は行われていない. また,特に山陰地域の自生地調査からはすでに 40 年近く経 過しており,河川改修等により自生地の環境も大きく変化 している.
本研究室ではキシツツジを花卉遺伝資源として評価し育種的活用をはかることを目的として,山陰地域の島根県およ び鳥取県の河川に自生するキシツツジを中心に,四国地域 の河川の自生集団もあわせて調査を行った.具体的には自生地における形態的形質の分析および葉緑体DNA 解析か ら,キシツツジの遺伝的多様性を評価した.
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