トウテイラン(Veronica ornata Monjuschko)はオオバコ科クワガタソウ属の多年草で,島根県隠岐諸島,京都府および鳥取県にのみ分布する日本固有種(大橋,2017)で環境省絶滅危惧Ⅱ類(VU)に指定されている.本種は自生地の開発や採取により個体数を急激に減らしており(矢原,2015),島根県では準絶滅危惧種(NT)に,また,鳥取県および京都府においても同様に指定され,レッドデータブックに記載されている.
トウテイランの開花期は7 から11 月で,青紫色の小花が集合した総状花序を形成する.また,葉の両面には白い毛じが密生しており,開花期以外の時期においても,いわゆるシルバーリーフプラントとして観賞することが可能である(小林ら,2015; 野津,1992).
トウテイランに関して,これまで住民らによる自生地保護活動(稲村,2000)や,自生地保護を目的とした各地域の自生状況調査(鐵ら,2017)が行われている.また,遺伝的多様性についてISSR マーカーを用いた評価(手嶋・大迫,2010)が行われており,近年の研究は,形態的多様性について調査が行われた.トウテイランの地域遺伝資源としての活用(小林,2012)を目的に園芸的利用価値の評価を行うため,個体ごとの形態的特性を調査した.隠岐諸島内の多様な環境下に自生する個体から種子を採集し,開花や形態に関する各種形質を産地ならびに個体間で比較した.隠岐諸島における自生状況の調査を行い,さらに自生個体に由来する実生を栽培し,園芸的観点から評価を行った.隠岐諸島内の幅広い環境に分布する本種には,草姿,花器形質,開花期に多様性が確認された.その草姿および花器形質の多様性を活用し,切花,鉢花,苗物など幅広い用途に利用可能であることが示唆された(加古,2020).花色についても従来の青紫色に加え,白色,紫色の個体が見いだされ,育種素材として活用することで花色の幅の拡大が期待される.また,開花期間の異なる個体を利用することで長期間にわたり生産,観賞できることが示唆された.隠岐諸島の地域特産遺伝資源であるトウテイランの特性を活かした今後の新品種の育成や生産方法の確立を通じ,日本原産の新規花き品目としての活用が期待されている.
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